フョードル・エミリヤーネンコ

ステンカと他の様々なマーシャルアーツ、スポーツ格闘技の違い。
よく知られているマーシャルアーツの全ては、具体的な個人に焦点を当てています。これは、個人主義と言えます。つまり、1対1、または1人対複数の戦いを教えているのです。これに対し、ロシアの白兵戦であるステンカのユニークな点は、最初の段階から、テクニックと戦術の練習はグループで行われる点です。つまり、完全に現実的なシチュエーションに合致していると言えます。全ての場合において、衝突時、単独であることはないからです。1対2、2対5、3対3、その他の組み合わせも可能です。勝ち負けは、具体的な個人の行動だけではなく、グループ全体の技能と足並みによっても決まるのです。

そのため、300人が数万人に抵抗したスパルタ人についての有名な映画のように、1人が3人に、2人が10人に抵抗することが可能なのです。ロシアにおいては、その昔、ステンカはマーシャルアーツであっただけではなく、もっと大きな意味を持つもの、助け合いと高い道徳性、お互いを気遣うことの不動の原則であったのです。今風に言うならば、いかに集団において仕事をするかを人々は知っていたのです。

中世においては、ステンカの幾人かの名人は、鍛錬による強い力をクマとの戦いでデモンストレーションすることができました。巨大な獣を相手に、ナイフ、または槍のみで武装した人間が登場するのです。人間の心が残酷な獣に勝利する素晴らしい見世物と肩を並べることができるようなコリーダはないでしょう。歴史は、これらの英雄たちを私たちに伝えています。ステンカの戦い時において、各人は、敵のステンカのどの敵に攻撃することもできます。そのため、時として、攻撃が3点から同時に行われることもあります。この場合、防御のための反応は、完璧でなければなりません。また、ステンカは、万能な練習方法でもあるのです。なぜなら、最初の段から、武器を持たない戦い、つかみ合い、ナイフを使った戦い、棒を使った戦い、刀剣(サーベル、鞭など)の扱いを最初の段階から学ぶからです。これは、他にはない特徴です。そして、動きと行動の基本は変化しません。
ステンカにおける動きは二つの重要な原則に基づいています。1.振り子(移動と防御のシステム)これは、誰でも知っている振り子の動きを思い起こさせます。つまり、前後、左右の揺れです。2.動線(攻撃と投げのシステム)動線とは、文明の発展の開始時から人間が知っている動きです。つまり、薪割りをする人の動き、オールを漕ぐ人の動き、草を刈る人の動きです。

これら全ての動きが、最大限に効果的な範囲と最小限のエネルギー消費で行われ、その効果を規定します。ステンカの効率性は、MMA、コンバットサンボ、キックボクシングなど様々なスポーツのフルコンタクトの試合において実証されました。